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No.774

「正義」の話
ロマサガRSにおけるアーサーとシグフレイの取り止めのない会話を妄想し、形にした小説です。
原作で一度も会話をしたことがない2人だから、せっかくの機会に語らせてみたかっただけの話ともいう。

とある部屋の一角で,2人の男が机を挟んで向かい合っている。
元居た世界での彼らの関係を端的に表すならば,上司と部下と記するのが妥当なのだろう。
上司──正確には,元上司なのだが──は,椅子に腰かけて机に頬杖を着いたまま,目の前で訝しげに立ち尽くす部下であった青年に微笑みかける。
「久しぶりだね,アーサーくん」
「……こんな形で再会するなんて正直,想定外過ぎましたよ,執政殿」
アーサーと呼ばれた青年は,その整った顔を極端に歪ませて不快を訴える。
「随分と素直になったものだ。ここまであからさまだと清々しささえ覚えるよ」
「貴方は相変わらずで何よりです。笑顔の奥底が見えやしない」
明らかな皮肉を向けられても,執政は笑顔を絶やさない。その表情に反して纏う雰囲気がやけに冷たく感じられるのは,2人の温度差故か。それとも。
「で,今度は何を企んでいるんです?」
「企む?何のことだい?」
「とぼけても無駄ですよ。貴方が出てくると,ろくなことが無い。大方,また──」
「残念ながら,この世界では私はまだ何の罪も犯していないよ。君がいくら法を振りかざしても,罪に問うことは不可能だろう?」
「いくらでもやり様はありますけどね。この街の法制度の整備を任されているのは僕なんで」
「職権を乱用するつもりかい?」
「元の世界で,貴方がやってたことと大差ないでしょうよ。法を武器に,相手を裁く。それは”正義の執行”と言えるんじゃないですかね」

正義。

アーサーの口からその単語が発せられた瞬間,執政の顔から笑みが消えた。

「正義──か」

ぞっとするほど冷たい声色が,場の温度を急激に低下させる。誰が見てもわかるほど,場の主導権は一転していた。
「君の言う”正義”とはどんなものなのか興味があるね、アーサーくん」
「…………」
アーサーは,暫しの間気圧されたかのように押し黙っていたが,
「正直に言えば,僕に”正義”を語る資格なんてないんでしょうよ。ただ──」
意を決したように、執政の目をまっすぐに見据えて持論を述べる。
「貴方の振りかざす"正義"が,真にそう言えるものなのかは疑問に思います」
「なるほど。”君”だから,そう感じるのだろうね,アーサーくん。欲深き者に,真の正義など,見えはしない」
「──……そのお言葉返しますよ,執政殿。恐怖を基盤とした正義なんて,巻き込まれる側からしたら,ただの”圧政”にすぎません。法の公平さすら保てない独りよがりな正義に,意味なんてあるとは思えませんけど」
「まだまだ視野が狭いね,君は。私が為してきた行動には全て意味がある。君が言う圧政すらも経過の1つにしかすぎない」
執政は,天井を──いや,その遥か頭上にある宙を仰ぎ見て言った。
「正義は,もっと純粋で高位なところにある。欲望に身を委ねるでもなく,私情を挟むでもなく,ただただ,断罪の斧を振るう──そう,かの気高き処刑人ならば,きっと私の求める真意に辿り着くことができると,信じているよ。」

処刑人。

執政の口にした言葉に、今度は、アーサーが声を振るわせる。
「……それならなおさら,会わせるわけにはいかないな」
「それを決めるのは君ではないだろう?」
「面倒なことになるのは避けたいんでね」
「それは,彼の意志かい?」
「いいえ,僕の独断ですよ。貴方をバルマンテと絶対に関わらせるべきじゃない」
全く……と呆れた様子で執政が息を漏らす。
「正しさよりも,自身の安寧を選ぶとは──酷く愚かな選択だ」
「愚かで結構ですよ。貴方も言っていたじゃないですか。僕は欲深き者だって」
静かに、けれども確かに2人の視線が交差する。
元居た世界では,決して成立し得なかった対立。それを支えているのは,アーサーが時間をかけて築き上げてきた地の利だ。
「この世界では,貴方に罪はない。それは確かだ。そして,それは同時に権力の喪失も意味するということだ。僕と貴方の間に、上も下も、支配も建前もない」
はっきりと言い切られてもなお、執政は笑う。穏やかに、笑う。
「上下など、必要ないさ。そもそも私に君たちと争う理由などないのだから」
「……?なんだって?」
「言葉のとおりだよ、さっき君も言っただろう?罪が無ければ、君もバルマンテくんも、私を追う理由などないわけだ」
「それは……だけど」
戸惑うアーサーに対し、
「私は、君たちの手助けをするために甦ったのだよ」
執政は畳みかけるように戸惑いを重ねる。
「…………は?」
思わず言葉を失ったアーサーを横目に、執政の高らかな演説は続く。
「人も魔も神も、ともに手を取り合い、止まる事なく戦い続け、襲い来る驚異に叩きのめされても抗い続ける。それがこの世界における何よりの"正義"なのだろう?ならば私も、それに従うまでだ。──さぁ、共に終わりなき正義を執行しようではないか」

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